開業当日
市電の開通を報じる当時の新聞
熊本市民の永年の夢であった市電は、大13(1924).7.31の竣功式に引き続き、翌8.1に開通式が盛大に行われた。文明都市の象徴であるこの交通機関の開通は、市民にとって大きな転機をもたらした。約6年前に電車計画に着手して以来、約400万円の経費、数多くの電車委員会や市議会の討議を重ね、多くの紆余曲折を経、さらに市当局、市議会議員、そして13万市民らの努力によって市電は開業したのである。
記念すべき開通式は8.1の8:00から、旧陸軍二十三連隊跡の花畑公園で行われた。中川知事、今井田逓信局長、篠出第六師団留守師団長ほか官民有志約1,500名が参列した。佐々木助役の開式辞のあと、電車部長松尾助役の事業報告、高橋市長式辞、来賓祝辞、祝電披露があり、閉式のあと市公会堂において祝宴が催された。
また市電の開通を祝って、市内では多くの催し物が行われた。藤崎台では競馬があり、熊本料理組合の仲居や、熊本・二本木・旭三券番連合の芸者達ら1,000名余りの祝賀行列が、二十三連隊跡から市電沿道を花傘姿でねり歩いている。この市内の賑わいぶりは熊本の歴史始まって以来のもので、珍しい物見たさに市民が我も我もと押しかけ、沿道はどこもかしこも見物人が鈴なりであった。
開通当時の花電車(絵葉書より)
開業当日は営業電車15両の他に、花電車2両も街中を走り回った。この花電車、1両は宝船を型どり、千両箱や米俵を満載して「寶」の大文字と鶴の白帆を上げたもの、もう1両は客車に装飾を施したもので、車体を紅白の幕で包み赤・青・紫など色とりどりの造花を飾り付け、「祝開通」の三文字を記したものである。いずれにも国旗と市電の旗を掲げ、数百の電球も散りばめられている。これらの花電車に当時としては大金である3,000円の経費を奮発している。花電車は7:50に大江車庫を出発、続行で熊本駅前から浄行寺町と水前寺へ各1往復したあと、1両ずつ各終点へ1時間おきに終日運転された。