電車会社創立と市営計画
この交渉中会社は、「将来市が電車を買収することを考慮し、従来の電気事業と完全に独立した別会社(資本金300万円)とすること」、「株式は市民を中心とし、その他関係方面が引き受けること」など、新会社経営の希望を出した。(結局はもとの「新会社設立」ということになる) 電車委員会で協議の結果、新会社の組織を熊本電気会社が一切責任を持つならば、仮契約・その他の協定事項はすべて新会社が引き継ぐことを条件としてこれに同意した。これが電車会社創立の最初である。
やがて両者の協議の結果、大9(1920).11.発起人会を開き、大10(1921).2.15軌道敷設特許願を内務・鉄道両大臣に提出、同11.14に特許がおりた。11.16には熊本電車鰍正式に創立した。社長鑄方徳蔵、資本金300万円であった。またすでに11.2には電車委員18名(市議会議員11名、市公民7名)を選出しており、このうち5名は大11(1922).1.24に特別委員となった。
熊本電車会社が得た路線は下の通りであった。
路線名 | 起点、経由地、終点及び軌道種別 | 路線長 | |
1. | 幹線 | 熊本駅前〜祇園橋〜細工町〜唐人町〜鍛冶屋町〜古川町〜花畑町〜下通町(以上併用軌道)〜仲間町〜知足寺町(以上新設軌道)〜木戸組町〜安巳橋通町〜水道町〜南千反畑町〜妙体寺町〜東坪井町(以上併用軌道) | 複線 2.8mile |
2. | 上熊本線 (北廻) |
東坪井町〜中坪井町〜西外坪井町〜内坪井町〜寺原町〜池田町(上熊本駅前) (併用軌道) | 単線 1.3mile |
3. | 春竹線 | 下通町〜新鍛冶屋町〜春竹町(春竹駅前)(併用軌道) | 単線 0.9mile |
4. | 水前寺線 | 安巳橋通町〜安巳橋〜大江町〜味噌天神〜出水町今〜出水神社(併用軌道) | 単線 1.5mile |
5. | 上熊本線 (南廻) |
花畑町〜船場町上一丁目〜塩屋町〜新町二丁目〜新町一丁目〜桧物屋町(以上併用軌道)〜段山町(以上新設軌道)〜池田町(上熊本駅前)(以上併用軌道) | 単線 1.9mile |
6. | 黒髪線 | 東坪井町〜薬園町〜小幡町〜黒髪町字坪井(併用軌道) | 単線 0.5mile |
計 8.9mile |
軌道事業計画が進む中、大11(1922).2.1高橋新市長が来任、同5.に第二助役も交代し、電車問題も急変、電車の市営化が表面化してきた。市民の世論は市営化が圧倒的であったため、新市長は電車会社と交渉を重ねた。同7.24特別電車委員会を開き、翌日電車会社の事業引き受けに関する契約書を決定。7.31に市議会で電車の市営化が決定された。一方、会社でも株主総会を開き譲渡を決議。同8.1には両者に契約が交わされ、電車会社の一切の事業・権利・財産は市が買収し、軌道事業を遂行することとなった。
この様にわずか半年の間に一転して電車市営化が実現し、長年の懸案が解決されたのは、市民の世論に対して新市長がすばやく対応したためであった。
財産・権利の一切の引き渡しは大12(1923).4.13に行われ、同5.3をもって電車会社は解散した。