運転士教習物語(60-11、61-2)
自動車の運転免許を取得するときは一般的に教習所に通い、学科だけでなく、練習コースで運転の基礎訓練を受けて路上教習、検定試験という順序で取得します。
それでは鉄道や軌道の場合はどうでしょうか? どこで訓練するのでしょうか? 実技講習は営業車両の合間を縫って運行するのでしょうか? 終電後に運転するのでしょうか?
ここでは、熊本市電の運転免許(?)取得における実技教習や教習車(路上教習に使用)、試験車(検定試験に使用)について取材しましたので紹介しましょう。
車両連結(模擬)教習 1986.10.17取材
牽引する車両の誘導訓練 | 車両連結訓練 |
市電運転士の採用試験を受けて通った場合、まず動力車操縦免許(乙種)取得のために様々な実技講習を受けます。
この写真は車庫内で実技の基礎訓練を受けているときのものです。車両が故障や事故などで動かなくなった場合、救援車両(大抵は後ろに追いついた営業車両)と連結して推進運転をしなければなりません。左側は救援車両を誘導する訓練の様子です。大きな声、大きな動作ではっきりとわかるように誘導せねばなりません。およそ1m手前まで誘導したらこの車両に連結棒を取り付け、この棒を支えながら動かなくなった車両のところまでさらに細かく誘導し、連結します。右の写真は手前に連結された救援車両がいるものと思って下さい。(連結されているフリをして連結棒を持って誘導するのは脇から見ていると...(^_^;))
車掌教習 1992.3.21取材
連節車で車掌の教習 |
熊本市電の場合、運転士は連節車の車掌を兼務します。仮に運転免許試験に落ちても、次回の試験までは車掌として乗務することが可能なのです。
車掌教習は平日や休日の昼間の比較的乗客が少ない時間帯に連節車を営業車両として臨時運行して行います。1992.3.21、たまたまこの教習車に乗り合わせたため、早速取材しました。運転士1名+教官1名+訓練生7名の計9名が乗務する豪華版です。乗客よりも乗務員の方が多いのです! まだまだ慣れていない人もいるようです。
路上教習(教習車) 1995.4.20取材
教習車の表示をした1354号 |
1995年度採用の新人運転士は7名が合格しました。3月から研修が始まり、学科・実技の教習が行われました。
まず上記のように平日の昼間にも連節車を運行し、客扱いをしながら教習を進めました。4月に入って平日の昼間に運転教習が行われました。使用車両は1353号と1354号で、方向幕・系統板・側面板には「教習車」を表示しています。この2両は比較的運転がしやすいためなのか、教習車としてよく使われます。
検定試験(試験車) 1995.5.25取材
1995.5.25の9:30頃、所用をすませて洗馬橋から八丁馬場の自宅まで市電で帰ろうとしたとき、たまたま女性運転士の電車に乗り合わせました。
彼女は、「実は今日は新人運転士の実技試験なんですよ。私も当時を思い出しました。健軍町でコントローラーがうまく入らず、『バン!』と大きな音がして火花が出たんですよ。私泣いてしまいまして、もう絶対落ちたと思いました。」と語ってくれました。そのあと「10時頃から出庫しますよ。」と教えてくれましたので、市電の路上検定(?)とはどういうものか取材してみました。
試験車の表示をした1354号 | 系統板と側面板 |
9:50頃、水前寺駅通付近で無線から「試験車が今から出庫します」と流れてきました。これまでの経験から検定は健軍町方面で行われることが多かったので、体育館前〜神水橋で行われると判断。体育館前で下車し、歩道橋の上でカメラを構えました。
しばらくして試験車1354号がやってきまし
た。方向幕は「教習車」となっているものの、系統板と側面板は白地に黒文字で「試験車」と書かれています。私はこの表示板を見たのは初めてでした。もともと運転士の採用が毎年あるわけではなく、さらに平日の昼間数時間だけしか走らないのですから、地元にいてしかも事前に情報をキャッチして休暇を取らない限り、これにぶちあたる確率は皆無と言えます。
検定試験車(以下試験車)は体育館前で停車、試験を受ける運転士1人と試験官以外は降ろされ、体育館の控え室に移動しました。準備で2分ほど停車していましたので、その間に系統板と側面板をアップで撮影しました。
試験車は神水橋方面へ走り出しましたので、私も歩いて移動しながら撮影することにしました。神水橋で折り返すのであれば15分もあれば体育館前まで戻ってきます。しかし20分経過しても一向に戻ってきません。どうやら試験は健軍町まで行われているようです。
その後体育館前〜健軍町往復する試験車の写真を何枚か撮影しました。八丁馬場の下り電停では停止線とどのくらいの誤差で停車するかの試験を行ったようで、試験官がメジャーのような特殊な専用器具を持って測定していました。
あとで話をうかがったところ、体育館前→健軍町の下りでは速度と停止の試験、上りでは距離と目測の試験を行ったということです。また検査官は福岡の運輸局から来たそうです。
試験に無事合格した運転士は免許交付後、指導員の補助を受けながら7月いっぱいまで乗務し、8.1のダイヤ改正(増発)に合わせて一人立ちしました。
鹿児島市電の試験車 |
ところで、他都市では運転士の検定試験はどのようにして行われているのでしょうか?
参考までに当HPのA特派員が1992.5.20に偶然に撮影した鹿児島の試験車の写真を御紹介しましょう。場所は脇田で、ちょうど折り返しているところです。